俺を怒らせた言葉
確実に顔面を捉えたと思った俺の拳は、しかし手応えなく突き抜けた。
見た目通りの影のような奴らしい。魔法の武器が必要か?
>「ハハハ、いいねえ......ゾクゾクするぜ。
怪しい奴がいたらまずは攻撃する躊躇いのなさ、無鉄砲さ。
オレが実は悪い奴じゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そん時ゃ謝るだけだ」
だがそうならないだろう自信はあった。俺はこういう時は自分の直感を信じている。
>「まあオレはお前みたいのじゃ触れることさえできない影、つまり悪い奴だからいいんだけどなあ!」
「そうかい、そいつは良かったぜ!」
今回も俺の直感は大当たりだったわけだ。
>「......にしても、お前を見てりゃよくわかるよ。
心があるから、敵を作るし暴れたくなる。
そんなんじゃ全てと繋がることなんてできやしない。
あの白い奴が願ってることなんて夢のまた夢さ、ホント馬鹿みてえだ」
「ゴチャゴチャ五月蝿ぇな...」
構わず追撃しようとするが、チョロチョロ飛び回ってやがる。蝿みてぇに鬱陶しい野郎だ。
「そういう禅問答みたいなのは、ライフォスの神官様とでもやってろ!」
>「だからさ、オレが壊してやるわけ。
心を壊せば全てが一つになれる。
なんてったって、邪魔なものが何にもねえんだからな!
だからさ......」
「おい、いいから降りてこい...」
とりあえずさっきから訳わかんねーことばかり囀ずってるあれを黙らせよう。
話はそれからだ。
>「壊してやるよ、お前の心も。
ここはお前の心の世界。
正確に言や、オレが幾らか歪めてやった世界だがな。
世界が崩れれば心も壊れる。
オレが世界ごと壊してやるよ、死より生まれた穢れた力でな!」
工房の奥から何かが爆発したような音が響いた。
そして黒い奴は姿を消した。
>「急に飛び出してどうしたってんだよ!
てか何事だ、スッゲー音聞こえてきたけど」
駆け寄ってきたベーグルにはあいつの姿が見えてなかったってことか...
さて、ここからどうするか。
敵も消えちまったし、工房もヤバそうだ。普通なら、早くここから離れるのが正解だな。
だが、この状況は普通じゃない。
俺がこの世で最も尊敬する人物である、親父の言葉が思い出される。
『いいかデニッシュ、ヤバい時こそ前に出ろ。そこで退かずに前に出られるかどうかでそいつの器が決まる』
確か親父は喧嘩の心構えでこれを教えてくれたはずだが、この言葉は冒険者になってからの俺を幾度となく救ってくれた。
「ベーグル、お前はさっさとここを離れろ」
俺は工房の奥へと駆け出した。
「ヤバい時こそ前に、だよな親父...」
そこに何があるのかわかんねーが、ここで逃げたら多分どうにもならねーと思った。
そして、あいつの言ってることはサッパリだったが、去り際に一つだけ聞き捨てなら無いことを言ってたよな。
>「オレはこの世界からパンすら消し去ってやるよ。
お前は残ったパンでも侘しく食べてればいいさ!」
「次会ったら絶対ぇー殺す...!!!」
――――――――――PL
先制判定なしの時点でこうなるだろうことは予想してましたが、PCとしては全力を出すべきところだったのでMPはちゃんと消費します。
そして行動は前進あるのみ!