今日も俺はパンを焼く
「...んぁ?」
いつもの《火竜の手羽先亭》の部屋で目を覚ました。
まだ空が白む前の時間帯だが、俺にとっての『朝』だ。
ベッドを抜け出し、部屋を出て厨房に入る。
「さ~て、今日は何にすっか」
新鮮な小麦粉の山を前にして、どのパンを作るか思案する。
最近は店で朝飯に出すパンを全部俺が作っている。別にナゴーヤに頼まれたわけじゃない。好きでやってることだ
。
材料費も薪代も全部俺持ち。バイト代なんてもちろん出ない。ナゴーヤはパンを買い取ろうと言ってきたんだが俺が断った。
パン屋を飛び出した奴がパンで金を稼ぐもんじゃねぇ。
「な~んか変な夢見たような気もすんだけど......なんだったかな?」
どうにもまだ寝惚けてるみてぇだ。
俺が見る夢といえば、大抵はパンを作る夢か暴れる夢ばかりだ。...やってることは現実と変わんねーな。
そういえば、やっぱりパンを作って暴れていたような気もする。
なんだ、いつもと変わんねーじゃねーか。
「......お?」
気が付いたらパンが焼き上がっていた。やべーな、余計な考え事してたら無意識に作っちまってたよ。
「...しっかし、なんで俺『ベーグル』なんか作ったんだ?」
数多くのレパートリーの中で、別に苦手というわけじゃないが、得意というわけでもない。
俺は竈から出て湯気を立ててる大量のベーグルを見て首を捻った。
>『お前ならどこ言っても上手くやれるさ。
そんで美味いパンも作れる......だろ?』
「...?...まあ、いいか」
一瞬、何かがよぎって誰かのことを思い出しそうな気がしたが、そろそろ朝飯の時間だ。
「おう、できたぜナゴーヤ。持ってってやりな」
腹を減らした奴らに、焼き立てパンを食わせてやらないとな。
>「ヨーッス。オッハー。」
「・・・・・・(ベーグルもぐもぐ)」
「ニャー」
『ボンジョルノォォッ!』
どこかで聞いたような声が食堂の方から聞こえてきたような気がする。
「まさか...な」
今日も俺は変わらずパンを焼く。
それ以外はどうでもいいことだ。
―――――――――――PL
悪根さんのラストに便乗させてもらいました。
だって『ベーグル』なんて出されたら...ねえ?
これにて終了!
ありがとうございました!