帰り着いて思うこと
「おー、これは中々......」
暇を持て余し、皆と一緒に街に繰り出してみたのだけれど。
さすが芸術家が集まった街。規模こそ帝都には及ばないが、面白さで言えば互角かもしれない。
呼び声にも活気があって、ひやかしが捗るというものだ。
「すみません、キャンディー下さい!」
「あ・・・」
「すみません、やっぱり買うのやめます。」
なぜひやかしかというと、まあ今ナマさんが見せてくれたように、僕にはお金がないのだ。
依頼のためにありったけ買い込んだんだから仕方ないとはいえ、この活気の中を歩くには寂しい。
「まったく、これなら手に入れた鱗だの何だのをさっさと売り払っておけば良か......」
「じゃあオレが買うよ。
おみやげもあるから3つちょうだい」「え?いいんですか・・・?」
ちょうど僕がぼやき始めたところで、アーレイさんがアメを買ってナマさんに渡していた。
アーレイさんは僕らと違ってお金を持っているようだ。うらやましい。
「お金のことは帝都に帰ってから精算するとして、
今日はみんなで回ろうよ。
せっかくのコンチェルティアなんだしさ」「あ、はい。ありがとうございます!」
「......ええ、そうですね。
それでは不肖この僕ナディンが、我が里に伝わる伝統的コーディネート殺法を......あ、要りませんか、そうですか」
言い終わる前にやめた。
流石に僕も外でウケる伝統とウケない伝統の区別がつきはじめている。
執事48の殺人技は半々だが、コーディネート殺法は多分駄目な方だろう。
* * *
あのあと、カイルさんとセーラさんからそれぞれ報酬をもらってルキスラに帰ってきた。
微妙に上乗せされていたのは、僕らの成果が良かったんだろうか。そうだと嬉しい。
そんな益体もないことを考えながら、火竜の手羽先亭の扉を開く。
中を見れば、馴染みの人やそうでない人、様々な冒険者達の姿。入れ替わりこそあれ、その活気は変わらない。
そんな光景を見て、コンチェルティアでカイルさんに言われたことを思い出した。
「この先に何かがあるかもしれない。
それは勿論この街かもしれないし、あんたたちの街かもしれない。
もし何かがあった時、俺はあんたたちを頼ることもあるだろう。
俺は、俺たちは、あんたたち冒険者という奴らに何度も助けられてきたからな」
......なんとなく嬉しくなって、小さく笑う。
冒険者なんて足掛けで、将来は良い主人のもとで執事をしたい......僕はそう思っているし、実際冒険をしたのは久しぶりだ。
それでも、そんな自分でも。もう少しくらいは冒険者でいるのも悪くないような気がした。
......いやまあ、まだ僕はそんなもの選べる立場ではない、という事実は置いといて。
ふとこみ上げる涙を誤魔化すために、僕は懐かしの激辛を注文した。
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PL:配管
最終回な。時と場合によっては書き足すかもしれないけどとりあえず最後です。
久しぶりなので冒険者についてちらりと考えるナの字。だが冒険者以外の選択肢は無いのであった、まる。