昔とった何とやらです。
私は表通りを抜けて、路地の裏の方へと向かいました。
路地の裏というのは、行き場のない方々の集まる場所。
官憲の目も届きにくいため、治安が悪いと聞いております。
本の世界でもそれは同じのようです。いえ、本の世界だからでしょうか。
では、先程の女性はこちらに何の用があったのでしょうか。
とてもここに縁のあるような方には見えませんでしたが...
念の為に『門』の場所を確認しながら歩いていると、
声が聞こえてきました。
>「おいおい、無視しないでくれよ。
> 俺たち金もないし暇でしょうがないんだよね」>「この布、結構いい生地使ってるんじゃね?
> いいなあ......そっか、金持ちなんだ。
> 金持ちだったら可哀想な俺らに恵んでくれよ、な?」
どうやら、穏やかじゃない事態のようですね。
奥に近づくにつれ、声の主達がはっきりと見えてきました。
先程の女性が男性4人に囲まれています。
>「......汚い手で、触らないで」>「てめぇ、舐めてんじゃねえぞ?
> 自分がどういう状況に置かれてるのか、わかってるのか......ああ?」>「今更こんなとこに来るんじゃなかったって後悔するんじゃねえぞ?
> 俺らを満足させるまで放さねえからな」>「痛......放しなさい!」
かたかた、と『門』達が少し震えた気がしました。
駄目ですよ。荒事は本当に最後の手段です。誰も傷付けてはいけません。
正面から堂々と立ち向かうのが得策とは、今の私にはどうしても思えませんでした。
ではどうすればよろしいのでしょうか?
その時、一つだけ作戦が思い浮かびました。
あまりにも突拍子もない、無謀とも言える物です。
しかし、私の本能がそれを実行するべきだと主張するのです。
気がはやっている妖精達の影響でしょうか。
考えている時間は余り無いようです。行きます。
ああ、ままよ。アステリアよ、私に加護を。
小さく祈りを捧げて、私は諍いの中へと飛び込んでいきました。
「お嬢様、こんな所にいらっしゃったのですか!」
「外出の際は私から離れぬように、と旦那様より言付けられているはずです。
お嬢様に何かあったら、私は尻尾と首を斬られてしまいます」
そう、名前も分からない女性にまくし立てます。
私はこの女性の護衛。はぐれたお嬢様を探しに来た屈強なリルドラケンの護衛です。
そういう設定なのです、と女性に目で訴えます。伝わってるかしら。
それから、男性達の方を一瞥し。
真っ赤な目を見開いて、睨みつけます。
「それで、あなた方はお嬢様に何の御用があるのですか?
もしも、お嬢様に危害を加えようとしていたのでしたら...」
分かりますよね?
その部分はあえて口に出しませんでした。
本当の所を申し上げますと、とても、緊張しています。
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◯PL
セスシナングは女性の護衛なんですよーと芝居を打って女性を助けます。
普通に正面突破でも大丈夫そうでしたが、面白そうなのでこっちでいきます。
芝居が失敗したなら風の翼を使ってその場を離脱する方向で考えています。