彼女と私の求めるもの
>「まあ、気づかなかったわ......それは彼への贈り物なの。
> よかった、ありがとう。
> あなたにはお礼を言ってばかりね」
まあ、彼への贈り物ですか。ふふふ。
それはとても興味深いですね。
この桃色の栞の導きではなく、私が耳年増なだけかもしれません。
アティファ様――さんは彼について話します。
>「それはね、簡単な話よ。
> 城の中にいると退屈なの。
> 満ち足りているけれど、ただそれだけ。
> だから時々私は街にこっそり出かけていたわ。
> でも、流石にこんな路地裏にひとりで来るつもりは最初はなかった。
> ただある時迷い込んで、ここで出会ったのよ――彼に」>「彼は、確かに貧しく、何の力も持っていなかったわ。
> でも彼は自由に生きていた。
> 一人でも生きようとしていた。
> 真っ直ぐに、誰かに敷かれた道を行かず、自分の道を拓きながら。
> そんな彼の自由さ、強さに私は憧れたのよ」
人は、自分が持っていない物を持つ者に憧れるものだと思います。
私の白い鱗と大きな体を羨ましいと言う方は時々いますが、
私としては、人間の食べ物をゆっくりと食べられる小さな口、
動くのに気を遣う必要のない小さな体に憧れます。
アティファさんは自分とは真逆の、その青年に惹かれたのですね。
>「――アラジン」
それが彼の名前みたいです。
アラジン、最近どこかで聞いたような...?
>「それが彼の名前なの。
> どうせならうちの近衛兵長ももっと彼を見習ってくれればいいのだけど。
> いつもガミガミうるさくて堅すぎて嫌になるわ。
> それに比べてセスシナングはマシね。
> でも、あまりかしこまった態度ばかり取られると困っちゃうわ。
> 私が嫌というより、そんな態度だと私が王女だって他の人に気づかれちゃう。
> でも、ちゃんと心掛けてくれるなら、あなたに護衛頼もうかしら?」
「ふふ、気を付けます。アティファさん。
私もかつては人に仕える身だったので、つい体が勝手に反応してしまうのです。
そうそう。私の事はセス、で大丈夫ですよ」
竜語から名前を付けるのが、私の生まれた村の風習だったのですが、
どうにも他種族には発音しにくいらしく、あまり評判は良くありません。
セスだけだと意味は木の葉だけになってしまうらしいですが、
縮めた方が言いやすいでしょう。
そういえば、今私達は何語で喋ってるんでしょうか。
来たこともない場所なのに、言葉が通じています。
私の口からもよく分からない言葉が出ているのに、意味が分かります。
これも絵本の世界の力なのでしょうか。
>「アラジンの家は、もう少し曲がって行ったところよ。
> ちっちゃくてぼろぼろな家だけどね、ふふ」
そんなことを考えている内に、アラジンさんのお家に近づいてきたようです。
近衛隊長さんも今頃とても慌てていらっしゃることでしょう。
きっとアティファさんのことを心から心配している、いい従者なのでしょうね。
でも私としましては、近衛隊長さんの頭痛よりも、お二人の逢い引きの方が気になるのです。
今は私の直感と本能を愛しましょう。
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◯PL
明日と明後日書けるかどうか分からないので、早めに投下です。
アラジンのお家まで付いて行きます。