線引き
(なんだってこんな所に石があるんだろう...)
僕は立ち上がり、遺跡の入口に向かった。
あの男は女性に任せて引き上げるつもりなのだろう。
それにしてもいけ好かない男だった。
ただの拝金主義というだけでなく、
先に送った男性をゴミ呼ばわりする差別意識も甚だしい。
あれで商売人として成立しているというのが寧ろ不思議に思えるくらいだ。
* * *
遺跡の入口は二体の獅子の像の向こうにある。
高貴な人のお墓などでよく見かける。ここもそうなのだろうか。
下に潜っていく階段を降りると、明かりが入口から奥へと流れるように灯っていく。
髪長姫の時は魔法の蠟燭だった。今回もオート照明とは気が利いている。
石でできた重そうな扉の前で声がした。
>「この扉の奥が、遺跡」
予想通り彼女はついてきた。
斥候の心得があるだけに、完璧な忍び足だ。
来ると予想してなかったらびっくりしていただろう。
>「私はファッティ様のため、動くだけ。
>お前とは、関係ない。
>お前は、勝手にしろ......私も、好きにする」
「そうします。」
もっと丁寧な言葉を普段は使うが、今の話し方からして
シンプルな答えをしたほうが親切だろう。
「彼がファッティさんですか。まんまですね。
ひょっとして貴女はスレンダさんとか言います?」
すべるだろうが冗談を言ってみよう。
これが冗談とわかる読解力を調べるためのテストだ。
彼女がドアを調べているようなので、僕も見てみることにする。
それから彼女はこう言った。
>「それとも私の邪魔、するか?」
>ならば、戦うだけ」
不器用な発言と共に、布の中から現れたのは双剣だった。
しかも、布からちらりと見えたのは、よく見慣れた額の眼だ。
「お邪魔はしませんよ。」
できるだけ簡単に答える。
僕は先行した男性を助けるために行くと宣言したのだから、
彼女の邪魔はしないと言っているようなものだ。
今の発言から推察すると、僕と男の会話は把握できていないのかもしれない。
言葉の壁があるのだろうか。
決定的なコミュニケーション能力の欠如だとしたら
恐らく、男、ファッティさんからは必要最低限の命令だけ受けて
彼女はそれを遂行している。そういうドライな関係なのかもしれない。
そう考えれば、ファッティという見た目以上にに醜い性格をしているということも
解らないわけだから、ファッティさんにとってこれほど便利な部下もいないだろう。
「邪魔だったら顔は隠さなくても大丈夫です。」
僕はシャドウ語で話しかけることにした。
「ファッティさんの予測が間違っていないのなら、
斥候の技術だけでも、専門知識が無いと目的地まではいけないような言い方でした。
それにしても、ファッティさんも面倒なことをしてくれましたね。
貴女以外に同じ仕事を別の人に頼んでしまっていますから、
調整がうまくいかない場合は、力による解決しか選べなくなるかもしれません。」
シャドウは契約事をとても重要視する。
場合によっては敵になってしまうことも、ちゃんと話しておくことことにした。
それ以外は、無害な存在であることもはっきりするだろう。
後になって裏切るよりはそのほうがまだ誠実だ。
* * * * *
コルチョネーラです。
謎の女性と同様に、扉の付近を調べます。
寒い冗談を言ってCPを狙いますが、
剣を振り回してきた場合は
「わぁーっ!! ちょっと待って!!」と避けながら慌てます。
戦いを避ける方向で進むことにします。
現地語がかなり怪しいので、以後シャドウ語で会話をすることにします。