想定内
扉の向こうは天井が高い円柱状の部屋があった。
部屋の中央には魔神のように見える像がある。
礼拝堂に近いイメージだ。
魔神の像のあたりはライトが当たっているかのように仄かに明るくなっている。
* * *
>「この指輪、見たことがある」
「おや、そうですか。」
イスラさんは魔神の像の台座に描かれている絵を見ながら言った。
確かにそこには、指輪の絵が描かれていた。
そして説明文。
「罠は過激で無差別で融通が利かないですが、こういうところは親切ですね。」
どうりでファッティさんがここの遺跡に詳しいわけだ。
ここまでたどり着ける人を雇ったのかもしれない。
その人はこの先に進むつもりだっったのだが進めず、指輪を使ったのだろう。
そして、その指輪をファッティさんが入手した、というのなら辻褄は合う。
または、たまたま指輪を入手して、ランプのことまで突き止めたのかもしれない。
どちらにしても指輪はファッティさんが持っていそうだ。
>「――何者?」
そこには、ルークさんとアメリアさん、及びドルクーアⅢ世に。
初めて見る現地の青年らしき姿があった。
さて、ここからは予想された展開。
先行した男性は無事だったのだ。
そしてランプも入手している。
当然ながら面倒なことは起こる。
青年もこのランプが必要らしい。
イスラさんは依頼を遂行するために必要なのだ。
一触即発なのは火を見るよりも明らかだ。
>「物騒だな、グレースさん。この女とはどういった経緯で知り合った?
>事と場合によっては....俺は戦いを選ぶ
>今は守る人がいるからな」
ルークさんの問いに僕はこう答える。
「遺跡の前です。イスラさんと一緒にいた外国人、ファッティさんに一緒に
遺跡に行ってランプを回収するように依頼されたのですが、
彼が先に依頼した人が戻ってこないので、彼女に再依頼なんてするものですから
僕はことわりました。でも、心配だから来たんですよ。
ご無事だったようで一応は安心しています。」
僕は青年に言った。
「貴方がファッティさんに最初に依頼をされた方なのですね?
そうすると、同じ人が二人に依頼をしたことになるわけです。
少なくとも、ファッティさんが調べた情報ですし、
彼から依頼されたわけですから、ランプは彼に持っていくのが筋だと思います。
持ち逃げは宜しくありませんよ?」
そして、僕はこう付け加える。
「ただし、ファッティさんが重大な違反をすれば話は別ですけどね。」
今の時点では、気に入らないが依頼人を勝手に告知無しに変えたという
理由だけで、ランプを持ち逃げするのはちょっとまずいと思った。
裁判をしたら負ける。
堂々と持ち逃げしたいのなら、彼は報酬を支払わないなどといった、
もっと大きな違反が必要だと判断した。
金と名誉のために使うことを考えたら、用途だけを見る限り
青年のほうが誰かが絡んでいるだけまともな感じがするからだ。
また、青年にはこう質問した。
「ちなみにランプを回収したら、ファッティさんは報酬として
貴方に何を約束されたのですか?」
青年の契約内容を聞いてから、僕はこう答えるだろう。
「どちらにしても、ファッティさんがまともに報酬を支払うような
態度には見えませんでした。」
また、イスラさんにこう言った。
「貴女が命を捨ててでもファッティさんとの契約を遂行しようとするのは
どうしてでしょうか?
この件に関して言えば、ファッティさんが撒いた種でもあります。
最初から貴女か、彼に依頼してちゃんと待っていれば、こんなことにはなっていないのです。
ファッティさんのオーダーミスによって生じたことですから、
この件で貴女が引いたとしても、普通は咎められないことなんです。
それでも、強引に排除してまで回収しなければならないというのは、
単に契約、という理由だけなのでしょうか?」
僕はダメ元ではあるがこう聞くしかなかった。
余計なことはしゃべらないというのも契約だったはずだから
恐らく、何も届かない気はするが。
できることなら、どうにかしたいのだ。
今の僕の発言で、
ファッティさんが青年に仕事を依頼したこと、
それを告知もせずに、無断で依頼先をイスラさんに変えたことも解るはずだ。
* * * * * *
グレースは筋を通すことを重要視しますので、
今の時点ではファッティさんにランプを持っていくのが筋と思っています。
ただし、最初にランプを見つけたのはアラジンさんなので、
アラジンさんが持っていくべきだとも思っています。
まずは情報収集ですね。
これが説得と呼べるものかは微妙ですが、理解しようとする姿勢は見せます。
色々追記しました。
これで青年には持ち逃げできるだけの口実もできたかな。